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SI改善のポイント:クロストークの特徴と対策

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クロストークとは

クロストークとは、図1のように、電磁界を介した2つ以上の伝送路間における意図しない電磁的結合により、相互に影響を及ぼしあう現象です。この結合が強いと受信デバイスが誤動作を引き起こしてしまう場合があります。昨今のデバイスの高速化、プリント基板配線の高密度化に伴い、クロストークに起因する問題が次第に顕在化してきています。一般的に、クロストークを発生させる信号線路を加害者(Aggressor)、クロストークの影響を受ける信号線路を被害者(Victim)と呼びます。

通常、加害者はドライバの出力であり、被害者はその線路に隣接する信号線路に接続されたレシーバの入力です。また、両信号の進む方向により2種類のクロストークに分類されており、両信号の方向が逆方向の場合に受信デバイスの端子に発生するクロストークを近端クロストーク(NEXT)またはバックワードクロストーク(図2)、 両信号の方向が同方向の場合に受信デバイスの端子に発生するクロストークを遠端クロストーク(FEXT)またはフォワードクロストーク(図3)と呼んでいます。(2つの伝送路に4端子回路網のSパラメータにおけるS31、S41がそれぞれNEXT、FEXTに該当します。)

プリント基板内には様々な信号が所狭しと配線されているため、クロストークを完全になくすことは出来ません。クロストークを抑制しようと信号間距離を取り過ぎると配線密度が低くなり、結果、基板面積が大きくなってしまうため、コスト高や機器の小型化にも制約が生じてしまいます。このため、実践的には、被害者側のレシーバの端子における信号品質において問題の無いレベルまで減らすこと、または、レシーバ(デバイス)の仕様に対してクロストークが許容範囲内かを見積もることが重要となります。

クロストークは、同一層で平行に配線された信号以外にも、図4のように、隣接層(近接層)で平行に重なり合って配線される信号にも発生する可能性があります。多層基板ですと、層間距離が線間距離よりも短くなる場合も多くなります。一般的には、信号層と信号層の間にはGND層や電源層が挿入されている場合が多く、問題とならないケースが殆どですが、多層基板でもGND層や電源層に信号線を配線している場合や、信号層が連続する場合などは注意が必要です。信号層の直下層がGND層であれば、信号のインピーダンスを制御しやすくなり、またシールド効果により信号間を分離することも出来ます。

基板設計における経験則として「3Wルール」というものがあります。これは、隣接する配線の間隔を配線幅の少なくとも3倍にするというものです。配線パターンで発生する磁束が70%減少するということが3Wルールの根拠となっています。(このルールは、特性インピーダンスが50Ωの場合で考えられており、50Ωより大きくなる場合は、発生する磁束も大きくなります。)パラレルバスなどでは、こういったルールを適用することが難しい場合もあると思います。クロック信号や非同期信号など、クロストークの影響が誤動作に直結する信号では、必ずクロストークの影響を担保しておく必要がありますが、同一のクロック信号でラッチされるデータバスなどの同期信号同士はクロストークの影響を受けても問題とならない場合が多いようです。これは、図5で示すようにクロックのエッジタイミングの前後僅かな時間(セットアップ・ホールド時間)にのみデータが(0または1に)確定してさえいればよく、それ以外の時間で信号がバタついていても受信側で正しくラッチ出来るためかと思います。(従来より、データ信号はクロック信号とは位相が90°ずれるように設計されていました。また最近の高速インターフェースにおいては、データ信号とクロック信号との位相差を最適に保つように受信側で位相を補正するメカニズムが実装されています。)

シミュレーションによる解析

ここで、クロストークと、平行信号線の配線長、信号間距離、及び加害者の信号速度(立上り/立下り時間)との関係性についてシミュレーションにより解析してみます。

図6に、実施したシミュレーション構成を示します。この構成では、平行に配線された2本のマイクロストリップライン(配線幅(W):150μm、配線長(L):25mm~100mm、信号間距離(S):150μm~600μm)があり、下側が加害者信号、上側が被害者信号となっています。加害者側は、ドライバの代わりに信号源(振幅:3.3V、立上り/立下り時間(Tr):100ps~400ps)を使用しています。図7は、シミュレーション結果の一例です。図の緑色細線は信号源波形で、赤色太線、青色太線がそれぞれ、近端クロストーク、遠端クロストークの特徴的な波形となっています。

クロストークによるノイズの振幅は、加害者の信号線と被害者の信号線の平行線長が長くなるほど大きくなりますが、ある長さに達するとそれ以上増加しなくなります。(この長さは「臨界長」と呼ばれています。)図8は、図6のシミュレーション構成において、立上り/立下り時間:500ps、信号間距離(S):150μsとし、配線長(L)を掃引して近接クロストークの臨界長を調べたものです。配線長(L)が50mm(ピンク色の線)より長くなると、振幅は250mVから変化しなくなることがわかります。

図9は、信号間距離(S):150um、立上り/立下り時間(Tr):100ps固定とし、配線長(L)を25mm~100mmに掃引してシミュレーションした時の近端クロストークと遠端クロストークの波形(上2つ、下2つはそれぞれ、立上り時、立下り時の波形)です。細線緑色の波形は信号源の出力波形で、太線の4つの波形は近端または遠端クロストークによるノイズ波形です。配線長(L)ごとに赤色~水色に色分けされています。

近端クロストーク(左2つの波形)では、配線長(L)が長くなるほどノイズの幅は長くなりますが、配線長が臨界長を超えているため、ノイズの振幅自体は変わっていないことがわかります。(近端クロストークでは、配線による信号往復時間幅のノイズが発生することがわかっています。)また、遠端クロストーク(右2つの波形)では、配線長(L)が長くなるほど遠端クロストークによるノイズの振幅が大きくなっていることがわかります。遠端クロストークによるノイズの振幅も臨界長はありますが、近接クロストークに比べると長くなるようです。臨界長は、信号の立上り/立下り時間に依存しますが、近年のデバイスの高速化により、近接クロストークに対するその長さは極端に短くなってきています。このため、近接クロストークにおいては、殆どの配線で臨界長に達してしまい、平行配線長を短くするという対策は効果が薄くなってしまいました。

近端クロストークでは加害者信号と同極のノイズ波形が、遠端クロストークでは加害者信号と異極のノイズ波形が現れていることがわかります。

図10は、配線長(L):100mm、信号間距離(S):150μm固定とし、立上り/立下り時間(Tr)を100ps~400psに掃引してシミュレーションした時の近端クロストークと遠端クロストークの波形(上2つ、下2つはそれぞれ、立上り時、立下り時の波形)です。細線の4つの波形は信号源の出力波形で、太線の4つの波形は近端または遠端クロストークによるノイズ波形です。立上り/立下り時間(Tr)ごとに赤色~水色に色分けされています。

近端クロストーク(左2つの波形)では、配線長(L)がいずれも同じであるためノイズの幅は同じであり、配線長(L)がいずれも臨界長を超えているため、ノイズの振幅自体も変わっていないことがわかります。また、遠端クロストーク(右2つの波形)では、立上り/立下り時間(Tr)が遅くなるほどノイズの振幅が小さくなっていることがわかります。

ここでも、近端クロストークでは加害者信号と同極のノイズ波形が、遠端クロストークでは加害者信号と異極のノイズ波形が現れていることがわかります。

図11は、配線長(L):100mm、立上り/立下り時間(Tr):100ps固定とし、信号間距離(S)を150μm~600μmに掃引してシミュレーションした時の近端クロストークと遠端クロストークの波形(上2つ、下2つはそれぞれ、立上り時、立下り時の波形)です。細線緑色の波形は信号源の出力波形で、太線の4つの波形は近端または遠端クロストークによるノイズ波形です。信号間距離(S)ごとに赤色~水色に色分けされています。

近端クロストーク(左2つの波形)では、配線長(L)がいずれも同じであるためノイズの幅は同じで、信号間距離(S)が長くなるほどノイズの振幅は小さくなっていることがわかります。また、遠端クロストーク(右2つの波形)でも、信号間距離(S)が長くなるほどノイズの振幅は小さくなっていることがわかります。

前2例と同様に、近端クロストークでは加害者信号と同極のノイズ波形が、遠端クロストークでは加害者信号と異極のノイズ波形が現れていることがわかります。

クロストーク対策

最後にクロストークを抑えるポイントを纏めておきます。

(1)信号の立上り/立下り時間を遅くする。
(2)加害者信号と被害者信号間の配線距離を空ける。
(3)加害者信号、被害者信号間の平行配線部分の距離を短縮する。

クロストークについては、他にもいくつか考慮することがあります。この後、第6回、第7回のコラムで、配線層間でのクロストークや信号のガードリングなどについて詳しく解説していきたいと思います。

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