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  • 連載コラム :EMI低減の道しるべ

バイパスコンデンサの配置・配線

はじめに

シミュレーション業務に長年携わってきている中で、時折EMCのシミュレーションに関するご相談をお客様からお受けすることがあります。 然しながら、EMIの分野においては、シミュレーションで得た解析結果と実測と合わないことがよくあります。 我が社では、シミュレーションによる解析値と実測値との相関性を向上させるべく、毎年実験基板を製作し、特に放射エミッションの分野において、層構成、配線・ビア、部品配置などプリント基板の違い、バイパスコンデンサの数・定数、フィルタの有無など回路要素の違いによって生ずる放射エミッションの差を実測で検証し、データの蓄積に努めています。 また、シミュレーションによる解析値との整合性を検証し、モデルの精度向上と解析速度の向上を両立させるための取り組みも行っています。 本連載コラムでは、こうした取り組みの中から放射エミッションに関する内容を一部ご紹介していきたいと思います。

目次

バイパスコンデンサの配置・配線

大規模LSIで発生する内部回路の同時スイッチング時や、ドライブ能力の高いICの高負荷駆動時に、電源ピンから大きな過渡電流が流れ込みます。 これらの過渡電流による電源変動ノイズを低減するにはバイパスコンデンサ (以下、「パスコン」と表記) が必須ですが、パスコンの配置・配線が良くないと、電源変動ノイズの低減効果は薄らいでしまいます。 パスコンの配置・配線についてはEMC Adviser (株式会社図研様製) など、経験則に基づいた設計ルールベースの検証ツールが存在しますが、個々の対策による放射エミッション改善への寄与度はまったくわかりません。

本連載の第1回目は、パスコンの配置・配線の良し悪しについて、様々な実験基板における放射エミッションの測定結果を元に考えて行きたいと思います。

ベースとなる実験基板の構成

今回の実験基板の構成写真を図1に示します。 構成としては、「電源基板」と「実験基板」の2種類の基板があり、BtoBコネクタで相互に接続されています。 写真左側が電源基板で1種類のみ、右側が実験基板で放射エミッションの比較を行うために複数種類の基板を製作しています。 評価したいのはあくまで実験基板の放射ノイズであり、電源基板は、実験基板に対し3.3Vの電源を供給するためだけのものなので、乾電池+リニアレギュレータという構成にして極力ノイズを出さないようにしています。

図1: 実験基板の構成写真

実験基板の回路は、図2のように非常にシンプルな構成となっています。(一部回路の異なるものがあります) 中央にあるX1が50MHzの発振器で、ここがノイズ源となります。 すぐ右横のR2が22Ωのダンピング抵抗、右端C3が一般的なCMOS ICの入力ピンを模した5pFの容量負荷です。 X1の電源ピン近くにあるC1が0.1μFのパスコンで、今回のコラムでは、このパスコンの配置・配線の良し悪しが放射エミッションにどのように影響を及ぼすかを検証していきます。

図2: 実験基板の回路図

複数ある実験基板は全て160mm×20mmサイズで4層基板です。 もっともオーソドックスな配置・配線を採用している基板を「ベース基板」と呼ぶこととし、他の基板との比較対象にします。 ベース基板の各層の配置・配線図を図3に示します。 右側にあるX1(発振器)へ供給する電源は、左側CN1から、L3の3.3V電源LINEを通って供給されます。 X1の左側直近にC1(パスコン)が配置されています。 今回のコラムでの実験は、全て電源ラインに起因する放射ノイズを測定することが主目的であることから、電源ラインを引き延ばしています。 また、信号ラインに起因する放射ノイズを極力排除するため、図3の右側で示すように、C3(負荷)への信号線接続は最短となるように配置・配線されています。

図3: 実験基板の各層の配置・配線図

各基板における変更点の説明

ベース基板を基準として、これに少しだけ手を加えた基板を複数用意しました。 今回ご紹介するのは図4に示す①~⑧の8種です。 それぞれのベース基板からの変更点を以下で説明します。

① 前項で紹介したベースとなる基板で、一般的なパスコンとビアの配置となっています。 我が社では、ノイズ源となるICの電源・GNDピンからパスコンを通ってビアに接続されることから、この構成を「通り抜け」と呼んでいます。
② ①と同じ通り抜けの構成ですが、ビア位置を変更しています。
③ ①と同じ通り抜けの構成ですが、パスコンをノイズ源となるICから少し(①と比べて4mm)離しています。
④ ①と同じ通り抜けの構成ですが、ビア位置を発振器のパッドに近づけています。
⑤ 一般的に良くない配線とされる構成です。 我が社ではこの構成を、あたかもパスコンがICの電源・GNDピンにぶら下がっているような配線であることから、「ぶら下がり」と呼んでいます。 この構成では、ネットは同一ですが、電源・GNDビアから一度ノイズ源となるICを経由してパスコンに接続されます。
⑥ パスコンをはんだ面側に配置した基板となります。 パスコンは、ICの電源・GNDピンとの配線長が最も短くなるように配置・配線されています。 構成上は通り抜けでもぶら下がりでもない構成となります。 ここでは「分岐」と呼びます。
⑦ パスコンをはんだ面側に配置していますが、通り抜けの構成となるように配置・配線されています。
⑧ パスコンの配置とは無関係ですが、電源ライン~ICの電源ピンの間にπ型フィルタを挿入したものになります。

図4: 実験基板のバリエーション

放射エミッション測定結果

今回紹介した8種類の基板の放射エミッション試験結果を図5に示します。 左列は発振器周辺の部品配置と配線図で、図4と同じものです。 一番上側の「①通り抜け1(ベース基板)」を基準とし、他の基板はこの基板と比較することで、パスコンやビアの配置・配線の良し悪しを比較・検討していきます。 中央列は3m法での放射エミッション試験の結果を表し、 右列に電界強度(ピーク値)の高い順に上位5番目までのピーク値と、その周波数を掲載しています。

図5: 各実験基板でのパスコン、ビアの配置・配線と放射エミッション試験結果

測定結果の考察

ここからは、それぞれの測定結果に対する考察をしていきたいと思います。

②は①に対し、ビアの位置を変更 (図6参照) しただけですが、ピーク周波数で2dB程度悪化、全体的にも悪化傾向 (図7参照) となっています。 ①では電源・GNDビア間が隣接していますが、②では離れてしまっているため、電源・GNDビア間の相互インダクタンスが減少しているためと考えられます。

図6: 電源・GNDビア間を離したケース(配線比較)
図7: 電源・GNDビア間を離したケース(結果比較)

③は①に対し、パスコンとビアを発振器から4mm離したものです。 この構成にすると、驚くことにピーク周波数で2dB程度ですが改善 (図8参照) します。 また、図9で示すように、高調波成分ほど改善効果が高くなっているのがわかります。 「パスコンはICの出来るだけ近くに配置する」という経験則に相反する結果です。

図 8: パスコンとビアを発振器から離したケース(配線比較)
図9: パスコンとビアを発振器から離したケース(結果比較)

④は、①と同じ通り抜けの構成ですが、ピーク周波数で4dB程度悪化、全体的にも悪化傾向 (図11参照) となっています。 これは、発振器のパッドとビアの距離が近すぎるため、同一ネットクロストークが発生しているものと考えられます。 高周波では、配線間スペースが小さく、向かい合う配線の距離が長いと結合が大きくなり、クロストークの原因となりえます。 この例では、図10の④で示すように、ビア周囲のパッドと発振器の電源パッドが結合し、パスコンの効果が薄らいでしまっていると考えられます。 このルートを辿ると、結果的に⑤のぶら下がりと同じような構成となるためか、測定結果も⑤に似ています。 (図12参照) ⑤は、一般的に好ましくないとされるぶら下がりの構成なので、①と比較すると電界強度は4dB程度悪化しています。 配線インダクタンスを考慮した通り抜けぶら下がりの等価回路 (図13参照) を考えると、ぶら下がりの構成では発振器とPDNがパスコンを経由せず直結してしまうため、発振器が過渡電流を引き込んだ時にPDNから電流を引き込む割合が増え、結果的にパスコンの効果が薄らいでしまうと考えることが出来ます。

図10: 同一ネットクロストークの影響(配線比較)
図11: 同一ネットクロストークの影響(結果比較 ①vs④)
図12: 同一ネットクロストークの影響(結果比較 ⑤vs④)
図13: 通り抜け構成とぶら下がり構成の等価回路

⑥は、パスコンをはんだ面に配置した基板となっています。 (濃い赤色と濃い緑色の配線は、はんだ面の配線を表します。) ①と比べると、ピーク周波数で約5dB悪化し、全体的にも悪化傾向 (図15参照) となっています。 この構成では、パスコンパッド~ICパッド間に生じる寄生インダクタンスが、ビアを通る分大きくなってしまいます。 また、電源・GNDプレーンからの接続は、図17で示すように、ICとパスコンそれぞれへ分岐する構成となり、電源・GNDプレーンからICパッドまでの寄生インダクタンスよりもパスコンパッドからICパッドまでの寄生インダクタンスの方が必ず大きくなります。 パスコンをはんだ面に配置しつつ、分岐の構成を避け、通り抜けの構成にしたのが⑦で、⑥と⑦を比較すると、①と同程度まで大きく改善しています。 (図16参照) 然しながらこの構成とするには、ビアを2個余分に配置する必要があるため、やはりパスコンは同一面に配置する方が有利であると言えます。

図14: パスコンをはんだ面に配置したケース (配線比較)
図15: パスコンをはんだ面に配置したケース (結果比較)
図16: はんだ面で通り抜け構成としたケース (結果比較 ⑥vs⑦)
図17: ⑥分岐構成の等価回路

⑧は、パスコンの配置・配線とは無関係ですが、放射ノイズ対策としてよく見かけるビーズを使用したπ型フィルタを電源ラインに挿入した基板です。 (図18参照) π型フィルタのビーズ部分には、株式会社村田製作所様の「BLM18RK121SN1」を使用しました。 このビーズのインピーダンス特性を図19に示します。 図からもわかるように、100MHz~1GHzでのインピーダンスが高く、この周波数領域のノイズを抑えるのに適しています。 測定の結果、図20で示すように大幅に放射ノイズを抑えることが出来ています。

図18: π型フィルタの効果(配線比較)
図19: 使用ビーズのインピーダンス特性
図20: π型フィルタの効果(結果比較)

最後に

今回のコラムでは、パスコンとビアの配置・配線の違いによる放射エミッションの差を見てきました。 パソコン、ビア、IC、それぞれの間の接続順序に注意をしながら、「ぶら下がり」や「分岐」の構成を避け、「通り抜け」の構成にすることで、放射エミッションを低減することが出来ました。 また、放射エミッションは高周波帯域を問題にすることから、配線間スペースが小さく、平行配線距離が伸びると簡単に結合し、「同一ネットクロストーク」が発生することで、パスコンの効果が薄らぐ可能性があることに注意が必要であることがわかりました。 次回以降も引き続き、パスコンの個数や線電源から面電源へ変更した場合の効果などについて見て行きたいと思います。

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